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女性の気分障害(月経前症候群や周産期うつ、更年期障害など)

[2025.10.15]

当院でも、女性の患者様の割合は非常に高く、特に女性特有の周産期や月経に伴う気分障害や子育てや家族、仕事など多岐にわたる負担から不眠や抑うつに至る方が多くいらっしゃいます。

今回は女性の気分障害について記載していきます。

 

男性と女性の性差

うつ病の女性の生涯罹患率は男性の2倍とされ、うつ病や双極症、抑うつ状態などの診断を含むいわゆる気分症群の患者数も男性の1.5倍程度で推移しています。

女性のメンタルヘルスは①生物学的性(sexuality)における差異、即ち性ホルモンの差異と②心理社会的性(gender)における差異という2つの性差から考える必要があります。1)2)

性ホルモンの差異は男女間で容姿や筋肉量、あるいは生殖可能年齢といったことだけでなく、脳の形態や機能、神経伝達まで広範囲に影響を及ぼしています。

一方、心理社会的性差は普遍的・固定的ではなく、時代の文化により変化していくことも多く、性別役割分担の思想や社会的地位などの影響も含め、例えば女性ホルモンの影響を受ける更年期障害や周産期うつ、月経前症候群なども単純な性ホルモンの影響という一辺倒な視点ではなく、こういった心理社会的影響も加味して考えていく必要があります。

 

女性のうつ状態とうつ病

抑うつ気分や興味関心の低下、不眠などのうつ状態から抑うつエピソードを診断するには、鑑別診断の検討が必要となります。特に女性においては、橋本病などの甲状腺機能障害や多嚢胞性卵巣症候群などの性腺機能障害、膠原病、アルツハイマー型認知症などの身体疾患による抑うつ、GnRHアゴニストなどの女性ホルモン関連製剤を使用している場合の薬剤性うつ状態なども検討する必要があります。加えてパーソナリティーや不安症等の合併の検討なども必要となるでしょう。

抑うつエピソードであると診断した場合でも、単極性・双極性や重症度の判断、経過・症状、生物学的要因、心理社会的要因などの観点から診断と治療の判断を行っていきます。

抑うつエピソードと躁エピソードが数カ月の短いスパンで交代していく急速交代型や、季節に特化して抑うつエピソードが出現する季節型、特に冬季うつ病は女性に多いとされています。

急速交代型の場合には双極症(双極性感情障害)の治療効果において強いエビデンスを持つ炭酸リチウムなどの効果がうすい場合があり、治療選択にも注意が必要です。冬季うつ病は体重増加、食欲増加、過眠、鉛状の麻痺、対人関係上の過敏さなどを特徴とする非定型うつ病像を呈することが多く、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)が第一選択となります。月経前不快気分症や周産期うつ病、更年期におけるうつ病は女性に特有のうつ病で、経口避妊薬やホルモン補充療法も考慮されるため、併せて婦人科受診をおすすめすることもあります。

また、副作用への配慮も肝要で、薬剤性高プロラクチン血症から生じる月経不順や無月経、体重増加などは服薬コンプライアンスに大きく関わります。

女性特有のうつ病の代表として先ほども挙げた月経前不快気分症(PMDD)、周産期うつ病、更年期におけるうつ病があります。その大きな原因としてエストロゲンをはじめとする性ホルモンの変動が関連しており、女性ホルモンであるエストロゲンはセロトニン系に、またプロゲステロンはGABA系に影響を与えていると考えられており、PMS/PMDDの成因仮説としてこの神経伝達の異常が有力視されていますが明らかな成因はまだ不明です。

産後うつ病では、産後に生じるホルモンの劇的変化とともに生じるセロトニン系の異常が成因として想定されており、更年期うつ病もまた加齢による卵巣機能の低下に基づくエストロゲンの低下とセロトニン系の異常が有力な成因と考えられています。この時期の女性の心身は安定した通常の状態を保つ余裕が乏しくなっており、①睡眠や食欲の症状②自律神経症状・身体症状(頭痛、冷え、のぼせ、痛み、浮腫など)③気分の症状(抑うつ、イライラなど)④認知の変化(悲観、衝動のコントロール困難など)の4つの基本的症状群があります。これらは、性ホルモンの安定により基本的に改善することが多いものではありますが日常生活への支障によって積極的な治療を要します。

月経前症候群(PMS)と月経前不快気分症(PMDD)

PMSの定義は幅がありますが、一般的に月経前10日~数日前からの頭痛、腰痛、腹痛、乳房痛、むくみなどの身体症状や自律神経症状、あるいは抑うつ・不安・イライラ感などの精神症状が出現し、月経の開始と共に症状が消えていくもので日本では成熟女性の10~15%に、米国の統計では20~50%の成熟女性に見られるとされています。3)

PMDDの症状出現時期はPMSとほとんど同時期であり、初経から閉経までいずれの年代でも出現し、有月経女性の約1.8~5.8%にみられるといわれている。4) PMDDの症状はPMSに比べて身体症状よりも精神症状が優位であり、PMS診断基準の5症状や感情症状も必須ではないという違いがあり、診断は2カ月間の前方視的症状評価によって確認していきます。

日本においても、雑誌やインターネット、SNSなどの影響によりPMSの認知度は高まっている印象を受けますが、診断上の問題点としてPMSの定義が決定していないことやPMDDはPMSと比べて知識が普及していないことなどが挙げられます。

PMDDは、原則として精神科専門領域での治療や関与が必要となり、鑑別診断として、PMS,双極症,うつ病,気分変調症や月経困難症,子宮内膜症,片頭痛,SLE,甲状腺疾患などがあげられます。また、PMDDの治療を求める女性の40%近くは月経による周期的な症状を訴えているにも関わらず,前向き評価では黄体期に直接関連する症状が見られないとも言われており、その場合はほかの精神疾患の可能性も十分に検討する必要があります。

治療の内容に関してはPMSもPMDDも大きな差異はありません。PMDDに関しては、抗うつ薬を中心とした薬物療法が頻用されますが、最近ではPMSに関しても同様の薬物療法の効果があるとの報告も多くなっています。薬物療法で最も有効性が高いとされるのはSSRIですが、三環系抗うつ薬のクロミプラミンも有効とされています。これらの薬剤の黄体期限定投与或いは黄体期の増量も効果が報告されています。5)

また、不安症状に対して抗不安薬も適宜使用されます。他にも日本では特に軽症例に対して当帰芍薬散や加味逍遙散、桂枝茯苓丸、温経湯などの漢方薬も使用されることが多いです。SSRIや漢方の効果が不十分な場合特に婦人科などでは経口避妊薬が用いられることもあります。

食事に関しては、アルコールやカフェイン、塩分や糖質の制限が症状の軽減に有効なこともあります。心理行動的アプローチとしても定期的な運動や認知行動療法、瞑想、指示的精神療法なども推奨されたりしています。6)

周産期うつ病

女性の生殖機能の精神疾患との関連はHippocratesの時代から注目されてきましたが、“maternity blues”24)の概念や公衆衛生的な文脈での“産後うつ病”の重要性が確立し始めたのは20世紀半ばを過ぎてからと意外にも最近のことです。しかし、1968年にPittらが産褥期のうつ病の発現頻度を10%と報告して以来、世界各地で疫学調査が行われ、やがて産後うつ病は10~15%という高い頻度で出現することが広く知られるようになりました。そして早期発見のためのスクリーニングの重要性が広く認識され、現在はそのスクリーニングの信頼性が不十分との報告もありますが、1987年に開発されたエジンバラ産後うつ病自己評価表(Edinburgh Post-natal Depression Scale:EPDS)が20か国以上の言語に翻訳され、産後うつ病のスクリーニングテストとして、日本を含む多くの国で産後うつ病のスクリーニング対策の拡大に大きく寄与したことは間違いないでしょう。

エジンバラ産後うつ病自己評価表

今日だけでなく、過去7日間にあなたが感じたことに最も近い答えに○をつけてください。
必ず 10 項目全部に答えてください。
例)幸せだと感じた。
( ) はい、常にそうだった
(○) はい、たいていそうだった
( ) いいえ、あまり度々ではなかった
( ) いいえ、まったくそうではなかった
“はい、たいていそうだった”と答えた場合は過去7日間のことをいいます。このような方法で質問
にお答えください。
1)笑うことができたし、物事のおかしい面もわかった。
(  ) いつもと同様にできた。
(  ) あまりできなかった。
(  ) 明らかにできなかった。
(  ) まったくできなかった。
2)物事を楽しみにして待った。
(  ) いつもと同様にできた。
(  ) あまりできなかった。
(  ) 明らかにできなかった。
(  ) ほとんどできなかった。
3)物事が悪くいった時、自分を不必要に責めた。
(  ) はい、たいていそうだった。
(  ) はい、時々そうだった。
(  ) いいえ、あまり度々ではない。
(  ) いいえ、そうではなかった。
4)はっきりした理由もないのに不安になったり、心配した。
(  ) いいえ、そうではなかった。
(  ) ほとんどそうではなかった。
(  ) はい、時々あった。
(  ) はい、しょっちゅうあった

5)はっきりした理由もないのに恐怖に襲われた。
(  ) はい、しょっちゅうあった。
(  ) はい、時々あった。
(  ) いいえ、めったになかった。
(  ) いいえ、まったくなかった。
6)することがたくさんあって大変だった。
(  ) はい、たいてい対処できなかった。
(  ) はい、いつものようにはうまく対処しなかった。
(  ) いいえ、たいていうまく対処した。
(  ) いいえ、普段通りに対処した。
7)不幸せなので、眠りにくかった。
(  ) はい、ほとんどいつもそうだった。
(  ) はい、ときどきそうだった。
(  ) いいえ、あまり度々ではなかった。
(  ) いいえ、まったくなかった。
8)悲しくなったり、惨めになった。
(  ) はい、たいていそうだった。
(  ) はい、かなりしばしばそうだった。
(  ) いいえ、あまり度々ではなかった。
(  ) いいえ、まったくそうではなかった。
9)不幸せなので、泣けてきた。
(  ) はい、たいていそうだった。
(  ) はい、かなりしばしばそうだった。
(  ) ほんの時々あった。
(  ) いいえ、まったくそうではなかった。
10)自分自身を傷つけるという考えが浮かんできた。
(  ) はい、かなりしばしばそうだった。
(  ) 時々そうだった。
(  ) めったになかった。
(  ) まったくなかった。
© 岡野ら(1996)による日本語版)
© 1987 The Royal College of Psychiatrists. Cox, J.L., Holden, J.M., & Sagovsky, R. (1987). Detection of postnatal depression.
Development of the 10-item Edinburgh Postnatal Depression Scale. British Journal of Psychiatry, 150, 782-786. Written permission
must be obtained from the Royal College of Psychiatrists for copying and distribution to others or for republication (in print, online or
by any other medium).

1)  加茂登志子. 女性のライフサイクルとうつ. 公衆衛生 2008;72(5):368-373

2) 加茂登志子. 女性のメンタルヘルス. 臨床と研究 2016;93(5):657-662

3) 日本産婦人科学会ほか.産婦人科診療ガイドライン-婦人科外来扁2017.

4) The Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, Fifth Edition(DSM-Ⅴ).American Psychiatric Association;2013/日本精神神経学会(日本語版用語監修),髙橋三郎ほか(監訳). DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル. 医学書院

5) Steiner M, et al. Expert guidelines for the treatment of  severe PMS,PMDD,and comorbidities:The role of SSRIs. J Womens Health(Larchmt) 2006; 15(1):57-69

6) Altshuler LL, et al. The Expert Consensus Guideline Series. Treatment of depression in women.A post graduate medicine special report. McGraw-Hill Companies;2001/大野裕(訳). エキスパートコンセンサスガイドラインシリーズ-女性のうつ病治療2001. アルタ出版 ; 2002.

 

 

 

 

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