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不眠症(睡眠障害)

不眠症とは、夜に眠れないなどの睡眠の問題があり、日中に眠くて身体がだるかったり集中力が低下することで、生活に支障が生じる病気で一般的には質的または量的に十分な睡眠が得られない状態を指します。不眠を経験することで更に布団に入ってもなかなか眠れず、「早く寝ないと」と不安や焦りが強くなり、余計に眠れなくなるといった悪循環を経験する方も多いのではないでしょうか。不眠の症状を抱えておられる方は年々増加しており、成人の3人に1人以上が何らかの不眠の症状を感じていると報告されています。睡眠への恐怖心や不安が高まると、「今夜も眠れないのでは」と朝から一日中睡眠のことばかり考えて何も手につかなくなったり、日中の眠気やだるさ、集中力の低下にもつながるため、仕事や家事がうまくいかなくなり、抑うつ状態に陥ることもあります。

不眠症の概念

2014年に米国睡眠医学会が刊行した睡眠障害国際分類第3版(International Classification of Sleep Disorders, Third Edition : ICSD-3)においては①眠る機会や環境が適切であるにも関わらず、②睡眠の開始と持続、安定性、あるいは質に持続的な障害が認められ、③その結果、何らかの障害を来す場合に不眠症と定義されます。すなわち、入眠困難や睡眠維持困難などの不眠症状の存在だけで不眠症と診断されるわけではなく、これらによって日中の機能障害が生じて初めて不眠症と定義されることになります。ICSD-3においては不眠の原因別の分類は廃止され、罹患機関に基づく3つカテゴリー(慢性不眠障害、短期不眠障害、その他の不眠障害)にまとめられました。その理由としては、他の何らかの病気によって二次的に出現したように見える不眠(例えばうつ病に罹患して出現した不眠などでも、抑うつ症状が改善してもしばしば不眠は残存する)は元の病気とは独立した経過をたどることが多いためです。
ICSD-3では、不眠症状とそれに関連した日中の機能障害が3カ月以上持続している場合は慢性不眠障害、それに満たない場合は短期不眠障害と診断されます。慢性不眠障害では不眠症状と日中の機能障害が週3回以上であることが基準の一つとなっていますが、短期不眠障害では症状の頻度についての基準は設けられていません。その他の不眠障害は、短期不眠障害の基準は満たさないが、不眠症として十分な症状を持ち、臨床的留意を要する稀な症例に用いる分類とされています。
詳しい診断基準は下記の通りです。では、慢性不眠障害を原因別で捉えなおしていきたいと思います。

慢性不眠障害の診断基準(基準A-Fを満たす)

  • A. 以下の症状の1つ以上を患者が訴えるか親や介護者が観察する
    1. 入眠困難 
    2. 睡眠維持困難 
    3. 早朝覚醒 
    4. 適切な時間に就床することを拒む 
    5. 親や介護者がいないと眠れない
  • B. 夜間の睡眠困難に関連した以下の症状の一つ以上を患者が訴えるか、親や介護者が観察する
    1. 疲労または倦怠感
    2. 注意力、集中力、記憶力の低下
    3. 社会生活、家庭、職業生活上の機能障害、または学業成績の低下
    4. 気分がすぐれない、イライラ
    5. 日中の眠気
    6. 行動の問題(例 過活動、衝動性、攻撃性)
    7. やる気、気力、自発性の低下
    8. 過失や事故を起こしやすい
    9. 眠ることについて心配し、不満を抱いている
  • C. 眠る機会や環境が適切であるにも関わらず、上述の睡眠・覚醒に関する症状を訴える
  • D. 睡眠障害とそれに関連した日中の症状は、少なくとも週に3回は生じる
  • E. 睡眠障害とそれに関連した日中の症状は、少なくとも3カ月間認められる
  • F. 睡眠・覚醒困難はその他の睡眠障害ではよく説明できない。

短期不眠障害の診断基準

  • A,C:慢性不眠症と同じ
  • B. 夜間の睡眠困難に関連した以下の症状の一つ以上を患者が訴えるか、親や介護者が観察する。
    • 疲労または倦怠感
    • 注意力、集中力、記憶力の低下
    • 社会生活、家庭、職業生活上の機能障害、または学業成績の低下
    • 気分がすぐれない、イライラ
    • 日中の眠気
    • 行動の問題(例 過活動、衝動性、攻撃性)
    • やる気、気力、自発性の低下
    • 過失や事故を起こしやすい
    • 眠ることについて心配し、不満を抱いている
  • D. 睡眠障害とそれに関連した日中の症状が認められるのは3カ月未満である
  • E. 睡眠・覚醒困難は、その他の睡眠障害ではよく説明できない

慢性不眠障害の原因

1. 精神生理性不眠症

診療していて一番患者さんの多い不眠症です。日本の一般人口において夜間不眠の訴えを持つのは成人の20%とされており、夜間不眠に加えて日中の機能障害を伴う精神生理性不眠症は約10%とされてます。小児期にはまれで典型的には20~30代に始まり、中年以降から急激に増加し40~50歳代でピークを示します。男女比では女性が多い疾患です。

臨床症状

以下で記載するすべてのタイプの不眠が生じる可能性がありますが、特に入眠困難を訴える頻度が高く「寝付くまでに時間がかかるが、寝てしまえばある程度の時間は寝れる」と述べる方も多くおられます。

①入眠困難

ベッドに入ってから入眠するまでの時間がかかり、寝つきが悪くなるタイプで不眠の訴えの中で最も多いです。一般的には入眠に30分以上かかり、本人がそれを苦痛であると感じている場合に入眠困難と判断されます。ただし、入眠時間は個人差や年齢で大きく異なりますので単に入眠に要する時間が長いだけで入眠困難と診断するわけではなく、本来の入眠時間との比較やそれを苦痛と感じているかが重要と言えます。

②中途覚醒

一旦入眠した後、翌朝起床するまでの間に何度も目が覚める状態を指します。ただし、中途覚醒か加齢にともなって健常者でも増加しますので高齢者ではその回数が数回以上であったり持続時間が長い場合を除けば必ずしも病的とは判断されません。

③早朝覚醒

本人が望む時刻、あるいは通常の起床時間の30分以上前に覚醒してしまい、その後入眠できない状態です。これも加齢に伴って増加します。

④熟眠困難

睡眠時間は十分であるにも関わらず、深く眠った感覚が得られない状態です。健常者の場合、熟眠感は深いノンレム睡眠の量と相関するとされていますが、不眠症の患者さんでは、検査で客観的な睡眠内容がほぼ正常であるにも関わらず「うとうとしただけで一晩中ほとんど眠れなかった」などと熟眠困難を訴える方も比較的多くおられます。

不眠による精神運動機能の障害

不眠⇒夜間の睡眠時間↓⇒日中の眠気↑⇒精神運動機能↓⇒注意力・作業能力⇒事故発生率↑

診断

多くの患者さんは、独自の、多くの場合は誤った方法でなんとか眠ろうと過度に努力をし、それよって精神的な緊張と興奮が高まる為、さらに睡眠が妨げられるという悪循環に陥っています。
また、日常的に不眠とそれに伴う苦痛を体験しているため、自宅の寝室に横になっただけで条件反射的に緊張と不安が生じてしまいます。そのため、睡眠を意識しない状況や自宅の寝室以外の場所では比較的睡眠がとれるかたもおられます。
状況の変化や精神的なストレスによる一過性の不眠は、だれにでも生じる正常な反応ですが、これを有害で病的なものと捉え、これを避けようと努めることで、自己の睡眠状態に過度にとらわれてしまうことがあります。こうして精神生理性不眠へとつながっていくことになります。

鑑別診断
  1. 逆説性不眠症
  2. 不適切な睡眠衛生による不眠
  3. 精神疾患による不眠

2. 薬原性不眠

3. 身体疾患による不眠

4. 精神疾患による不眠

5. 脳器質性疾患(脳梗塞や頭部外傷、認知症など)による不眠

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