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不安や恐怖 ~②人前での過剰な緊張や不安 社交不安障害(あがり症)

2023/05/29 BLOG

パニック障害については以前のブログ記事で記載しましたが、今回はその他の不安障害の一つとして人前での過度な緊張や不安を症状とする社交不安障害について言及していきます。

「不安」と一言で言っても、その対象や不安に伴う感覚は色々です。例えば、不安が高まるとソワソワする、じっとしていられないなどの落ち着かなさを自覚される方も多く、理由なく泣いてしまう方もおられます。
また、不安に伴う体の症状としてはパニック障害や今回言及する社交不安障害をはじめとする不安障害群ではしばしば「ドキドキする。」「息苦しくなる」「喉が詰まる(引っかかる)感じがする」「吐き気がする」「腹痛(下痢)」などの多彩な自律神経症状を認めることがあります。

社交不安障害の特徴

例えば人前や重要な試験や会議の前に緊張から少しドキドキしたり汗をかく程度の症状は多くの人が経験しますが、その緊張が過剰で強いドキドキ(動悸)感や発汗を自覚し、それに伴う強い不安感を抱いている場合は疾患ととらえることができるでしょう。
具体的な症状として、人前での緊張が過剰であることから、人からどう見られているのか必要以上に気にしてしまい、「人前で顔が赤くなる」「人前で字を書くときに震える(手の震え)」「人前で過剰に汗をかいてしまう」「声が震える」などの症状で来院される方が多くおられます。また、その症状を人に気づかれてしまうのではないかと考え、強い不安を感じ、「その場で症状が出てしまうのでは」と事前の段階で予期不安を感じる事と、その結果として人前や会議、グループワークや発表のある学校の授業などの場面をさけるという回避行動をとるようになることが典型的な症状と言えます。 一方で症状が進行する中でほかのパニック障害や全般性不安障害、強迫性障害をはじめとする不安障害の合併も多くみられ、加えて社交不安障害とうつ病は相互に関連していることが多く、併発することがよくあります。社交不安障害による社交的な困難や孤立感が、うつ病の発症や症状の悪化につながる可能性があります。

参考としてDSM-Ⅴの診断基準も記載しておきます。ICD-10の社会恐怖に該当しICD-11における社交不安症として定義されていますが今回は割愛しています。

社交不安障害(Social Anxiety Disorder)の診断基準

A. 社交状況での強い恐怖または不安が1つ以上の状況で持続的に存在する。これには他人との対面や観察、評価、パフォーマンスの場面が含まれます。

B. 実際の社交状況で恐怖や不安が発現するとき、一つまたは複数の以下の症状が生じる:
1.顔が赤くなる、震える、または体の他の部位に震えが生じる。
2.自分の発言や行動に対する恐れがあり、恥ずかしく思われることを心配する。
3.症状が明らかに過剰であると感じる。
4.社交状況を避けるか、または苦痛を和らげるために忍耐力が必要とされることがある。

C. 社交不安は、日常生活、社会的活動、職業的機能、学業の成績、または重要な領域において臨床的に意義のある苦痛や機能の低下を引き起こす。

D. 症状は他の薬物使用や身体疾患によるものではないことが示されている。

E. 他の精神障害(例: 自己像障害、自己回避性パーソナリティ障害)の症状によって説明できない。

社交不安障害の脳画像的研究

人前でのスピーチによって必発する動悸や発汗、紅潮などの症状に伴い2001年のTilloforsらの研究ではPET検査にて右の扁桃体の血流が過剰に増加しており1)、SSRIという種類の抗うつ薬による薬物療法や認知行動療法により症状が改善された場合、同じ場面においても扁桃体の血流の異常増加が改善されたという報告があり2)、社交不安障害の病態の一部として扁桃体の活動更新が関与していることが示唆されています。(実際にはこれに加え、行動の監視に関与している前部帯状回や前頭領域の活動亢進、大脳基底核での活動低下が推定されています。3))
また、社交不安障害の方は、他人の顔を見たときに、顔の評価や情報処理の特定のパターンを示すことがあることも知られています。たとえば、他人の顔の評価に関与する側頭前野や後帯状皮質の活動に異常を示すことがあります。

社交不安障害の治療

社交不安障害には、薬物療法もしくは認知行動療法が症状の改善に有用です。薬物療法としては前述したSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)もしくはSNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)が効果的であり、補助的に不安症状を抑えるために抗不安薬などを頓服薬として使用することが多いです。薬物療法と精神療法を組み合わせた治療が外来診療の中で行われることが一般的です。

《SSRIやSNRIの種類と効果》
SSRI
1.ジェイゾロフト(セルトラリン): セルトラリンは社交不安障害の治療において一般的に使用されるSSRIです。多くの研究で有効性が示されており、症状の軽減や生活の質の向上に寄与することが報告されています。
2.パキシル(パロキセチン): パキシルも社交不安障害の治療に使用されるSSRIの一つです。セルトラリンと同様に、症状の改善に有効であるとされています。
3.ルボックス(フルオキセチン):社交不安障害の治療における有効性については他のSSRIと比較して研究結果がやや劣る可能性があり一部の研究では有効性が示されていますが、他の研究では有効性についてはより不確かな結果となっています。
4.レクサプロ(エスシタロプラム):レクサプロは社交不安障害の治療において有効性が示されています。多くの研究が行われ、症状の軽減や生活の質の向上に寄与することが報告されています。加えてレクサプロは他の一部のSSRIと比較して、効果が比較的早く現れることが報告されています。一般的に、2〜4週間程度の投与後に症状の改善が見られる場合があります。

SNRI
1.イフェクサー(ベンラファキシン): ベンラファキシンはセロトニンとノルエピネフリンの再取り込み阻害作用を持つSNRIです。社交不安障害の治療において有効性が示されており、一部の研究ではSSRIよりも効果的であるとされています。
2.サインバルタ(デュロキセチン): デュロキセチンもセロトニンとノルエピネフリンの再取り込み阻害作用を持つSNRIであり、社交不安障害の治療に使用されることがあります。有効性についての研究結果は限られていますが、一部の研究では効果が示されています。

ただし患者さんの個々によって特に精神科の薬物反応は異なりますので、どの薬剤が最も効果的かは個別の評価と臨床的な判断に基づいて選択していく必要があります。

《認知行動療法の概要》
また認知行動療法では本人の思考パターンや信念に焦点を当て、自己否定的な考え方や社交的な状況に対する恐怖や不安を見直す作業が行われ、認知の修正を通じて、現実的で肯定的な考え方や自己評価を促すことが目指されます。ほかにも 社交的な状況に対する不安や恐怖を階層化して整理し、それに徐々に慣れるための計画を立て、最初は少しハードルが低い状況から開始し、徐々にハードルを上げながらな進んでいきます。不安や恐怖に基づく避ける行動を挑戦することで、新しい経験や情報を得ることを目指します。これにより、過度な恐怖反応を修正し、新たな行動パターンを獲得することができます。ほかにも社交的スキルのトレーニングやリラクセーション技法の導入を行うこともあります。特に、Cognitive Bias Modification(認知バイアス修正)と呼ばれるアプローチが注目されており、患者の認知的なバイアスを修正することで社交不安の症状を軽減する可能性が示唆されていますが現在も研究段階にあります。
治療法については現在も様々な研究のなかで進展してきていますが日本の保険診療という限られた

社交不安障害の対する家族や周囲のサポートについて

家族から見ると本人がそこまで困っているとは思えないことが多いです。それは、一緒に暮らしている家族に対しては、緊張せず場合により強い自己主張もできたりするものです。また、この疾患は精神科・心療内科においては一般的な疾患ではありますが本人も気づいていないことが多く、単なる「あがり症」「緊張しい」として考えてしまうことが多いためです。これが原因となり不登校や職場にいけなくなり二次的な抑うつを伴うなどして休職に至ることも多く、不登校や仕事に行けなくなる背景としてこの疾患が隠れていないかという視点をもつことも重要です。
このような症状を疑う場合には是非専門の医療機関に受診いただくことをおすすめします。

環境要因との関連

環境要因の一つとして家族環境は社交不安障害の発症に関連している可能性があるとされています。過保護な家庭環境や過度な批判や非難をはじめとする家族内の否定的な対応が、社交不安障害のリスクを増加させるという研究結果があります。また、家族の社交的スキルや社交モデルの欠如も影響を与える可能性があります。ほかにも友人関係や社会的な経験も社交不安障害に影響を与える要因とかんがえられており、過去のいじめや否定的な社会的体験、集団での発言や注目を受ける状況での過去の失敗体験などのネガティブな記憶も社交不安障害のリスクを高めるとされています。加えて社会的なストレスやトラウマとなるような経験は、社交不安障害の発症や症状の重症度と関連している可能性があり、過去のトラウマ、人間関係の問題、学校や職場でのプレッシャーなどが社交不安障害の発症や悪化に寄与すると考えられています。文化的な要因も社交不安障害に影響を与える可能性があり、社交的期待や価値観の違い、社会的な評価や役割のプレッシャー、集団文化の特性などが、社交不安障害のリスクや症状の発現に関与するとされています。これらの環境要因は、社交不安障害の発症や症状の重症度に影響を与える可能性がありますが、一般化することは難しく現在も研究段階の知見ではあります。

遺伝要因との関連

社交不安障害は遺伝的な要因が関与している可能性を指摘する研究も多く、遺伝子研究により、特定の遺伝子が社交不安障害の発症に関連していることが既に示唆されています。具体的には、セロトニン関連の遺伝子や遺伝子多型が関与している可能性があるようです。遺伝的な要因だけでなく、遺伝子と環境の相互作用も社交不安障害の発症に影響を与える可能性があり、環境要因(例: 経験やストレス)が、遺伝的な傾向を引き出す役割を果たすことが示唆されています。また、単一の遺伝子ではなく、複数の遺伝子が関与してリスクが増大することが考えられています。遺伝学的な要因だけでなく、神経生物学的、環境的、心理的な要素を総合的に考慮することが実際には重要で、多くの研究では、これらの要素を統合したアプローチを取っています。

1)Tillfors,M.,Furmark,T.,Marteinsdottir,I.,et al.: Cerebral blood flow in subjects with social phobia during stressful speaking tasks: a PET study. Am J Psychiatry,158; 1220-1226,2001
2)Furmark,T.,Tillfors,M.,Marteinsdottir,I.,et al.: Common changesin cerebralbloodflowin patients with socialphobia treated
3)Adolphs,R.: Theneurobiologyofsocialcognition. Curr Opin Neurobiol,11; 231-239,2001

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