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うつ病

うつ病は、個人の生活に与える影響の大きさや有病率の高さから、精神疾患の中でも特に社会的な重要性が高い疾患と言えます。一方で病像や経過、治療反応性が多様であり、聖女との境界が不鮮明であることから診断基準や分類は長年議論され続けており、現在の最新の診断基準や診断ガイドラインを元に記載いたします。

うつ病の就労への影響とその経済的損失

うつ病がもたらす影響として不眠や意欲低下、倦怠感などの残遺症状や認知機能低下、再発再燃などの症状としての影響に加え、自殺や脳血管障害、心臓血管障害のリスク上昇に伴う死亡率への影響などが指摘されています。
このように慢性に経過し、再発や再燃しやすい特徴から、就労への大きな影響ももたらします。職務遂行能力への影響から考えた場合、主に以下の2つのことが問題となります。
一つは、うつ病により、通常通りに職場に行くことが困難となり、欠勤や遅刻を繰り返す状態(アブセンティズム)、もう一つは、職場に出勤はしているがうつ病により本来のパフォーマンスが発揮できない状態(プレゼンティズム)です。

多国間(ブラジル、カナダ、中国、日本、韓国、メキシコ、南アフリカ、アメリカ)のうつ病によるアブセンティズムとプレゼンティズムによる損失を推計した報告があり、中国を除く7か国の比較ではアブセンティズムによる損失は日本が2,674USD/人で最も高いとされています。
また、2011年のOkumura and Higuchiによる報告では2008年の20歳以上を対象としたうつ病による損失全体は110億ドルと推計され、その内15億7,000万ドルが直接の医療費、25億4,200万ドルがうつ病関連の自殺費用、69億1,200万ドルが仕事ができなくなることによる損失の費用となっています。この推計値も、筆者らによると保守的に見積もられた数値とのことで日本全体に多大な経済的負担を課している疾患と言えます。

うつ病はこころの風邪ではない

うつ病の治療

①環境調整及び精神療法

軽症のうつ病や適応反応症の治療に抗うつ薬を導入するかどうかは、治療ガイドラインにも明確な基準はありません。実際に睡眠薬や少量の抗不安薬のみの処方であとは精神療法及び環境調整(就労制限や休職、休学等)でしばらく状態観察をすることも多くあります。また私自身だけでなく、患者さんの意向もお伺いしながら決定していく場合が多いです。
一方、うつ病が中等症から重症の場合や精神病症状(幻覚や妄想など)を伴う場合には基本的に抗うつ薬の使用を含め薬物療法を優先することが多くあります。しかしこの場合も併せて環境調整等は必要に応じて行っていきます。

②薬物療法

少なくとも中等症以上では抗うつ薬の使用は第一選択となります。うつ病患者の50%が抗うつ薬に反応し、30%はプラセボに反応すると言われています。
抗うつ薬の選択としてはガイドライン上では新規抗うつ薬(SSRI,SNRI,NaSSA)が第一選択とされています。

選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)
  • エスシタロプラム (商品名 レクサプロ)
  • セルトラリン  (商品名 ジェイゾロフト)
  • フルボキサミン (商品名 ルボックス、デプロメール)
  • パロキセチン  (商品名 パキシル)

比較的安全で日常生活に影響を及ぼす副作用が少なく、さらには全般性不安障害、社交不安障害、パニック障害、強迫性障害、PTSDなどにも効果を示すものが多く、治療域が広い為、うつ病治療の第一選択薬として用いられます。ただし効果としては後述するTCAには劣るため、重症例では適さない場合もあります。不安や過食などにも一定の効果があるとされています。

セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)
  • デュロキセチン (商品名 サインバルタ)
  • ベンラファキシン(商品名 イフェクサーSR)
  • ミルナシプラン (商品名 トレドミン、ミルナシプラン)

セロトニンとノルアドレナリン双方に作用するため、SSRIの効果に加えて、精神運動静止に対する作用などが加わり、より広い治療域となります。しかし、SSRIで見られる胃腸症状などの副作用に加え、ノルアドレナリン受容体を刺激することで頻脈、血圧上昇、尿閉などの副作用に注意が必要です。

ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬(NaSSA)
  • ミルタザピン (商品名 リフレックス、レメロン)

四環系抗うつ薬で、ほとんどの抗うつ薬はトランスポーター阻害によって効果を発現するのに対し、シナプス前部の自己受容体であるアドレナリンα2受容体の阻害によってセロトニンとノルアドレナリンの放出を促進することで効果を発揮します。さらに、シナプス後部のセロトニン5-HT2受容体を阻害することで、不眠や性機能障害が発現しづらく、5HT3受容体阻害により胃腸症状の副作用も出現しにくくなっていますが、ヒスタミンH1受容体遮断作用があるため、眠気や食欲増進、体重増加の懸念があります。

その他の新規抗うつ薬
  • ボルチオキセチン(商品名トリンテックス)

SNRI同様のセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害作用に加え、セロトニン神経系に対しては、セロトニン作動性の作用も併せもちます。認知機能障害を伴ううつ病に高いエビデンスがあるとされており、忍容性も高いのが特徴と言えます。

その他の抗うつ薬
  • 三環系(TCA)、四環系抗うつ薬、トラゾドン

TCAの効果は強力ですが、セロトニンやノルアドレナリンの再取り込みを阻害し、その他にもシナプス後部のヒスタミンH1受容体、アセチルコリンのムスカリン受容体、アドレナリンα1受容体なども遮断してしまうため、口喝や便秘、尿閉、起立性低血圧や眠気などの副作用が多く、容量依存性に心電図上のQT延長をもたらすため注意を要します。また、四環系抗うつ薬やトラゾドンもTCAと比べれば副作用は比較的少ないですが、眠気が強く新規抗うつ薬と比べると副作用は強いと言えます。

その他の新規
  • ボルチオキセチン(商品名トリンテックス)

診断基準(及び診断ガイドライン)

DSM-5

大うつ病エピソード (Major Depressive Episode)
  1. 以下の症状のうち5つ(またはそれ以上)が同じ2週間の間に存在し、病前の機能からの変化を起こしている。これらの症状のうち少なくとも1つは、1.抑うつ気分、あるいは 2.興味または喜びの喪失である。 注:明らかに、一般身体疾患、又は気分に一致しない妄想または幻覚による症状は含まない。
    1. その人自身の証言(例:悲しみまたは空虚感を感じる)か、他者の観察(例:涙を流しているように見える)によって示される、ほとんど1日中、ほとんど毎日の抑うつ気分 注:小児や青年ではいらだたしい気分もありうる
    2. ほとんど1日中、ほとんど毎日の、すべて、またはほとんどすべての活動における興味、喜びの著しい減退(その人の言明、または他者の観察によって示される)
    3. 食事療法をしていないのに、著しい体重の減少、あるいは体重増加(例:1ヶ月で体重の5%以上の変化)、またはほとんど毎日の、食欲の減退または増加 注:小児の場合、期待される体重増加がみられないことも考慮せよ
    4. ほとんど毎日の不眠または睡眠過多
    5. ほとんど毎日の精神運動性の焦燥または制止(他者によって観察可能で、ただ単に落ち着きがないとか、のろくなったという主観的感覚ではないもの)
    6. ほとんど毎日の易疲労性、または気力の減退
    7. ほとんど毎日の無価値観、または過剰であるか不適切な罪責感(妄想的であることもある。単に自分をとがめたり、病気になったことに対する罪の意識ではない )
    8. 思考力や集中力の減退、または決断困難がほとんど毎日認められる(その人自身の言明による、または他者によって観察される)
    9. 死についての反復思考(死の恐怖だけではない)、特別な計画はないが反復的な自殺念慮、または自殺企図、または自殺するためのはっきりとした計画
  2. 症状は混合性エピソードの基準を満たさない。
  3. 症状は、臨床的に著しい苦痛、または社会的、職業的、または他の重要な領域における機能の障害を引き起こしている。
  4. 症状は、物質(例:乱用薬物、投薬)の直接的な生理学的作用、または一般身体疾患(例:甲状腺機能低下症)によるものではない。
  5. 症状は死別反応ではうまく説明されない。すなわち、愛するものを失った後、症状が2ヶ月を超えて続くか、または、著名な機能不全、無価値感への病的なとらわれ、自殺念慮、精神病性の症状、精神運動制止があることで特徴づけられる。
大うつ病性障害、単一エピソード (Major Depressive Disorder, Single Episode)
  1. 単一の大うつ病エピソードの存在
  2. 大うつ病エピソードは失調感情障害ではうまく説明されず、統合失調症、統合失調症様障害、妄想性障害、または特定不能の精神病性障害とは重なっていない。
  3. 躁病エピソード、混合性エピソード、または軽躁病エピソードが存在したことがない。

注:躁病様、混合性様、軽躁病様のエピソードすべてが、物質や治療に誘発されたもの、または一般身体疾患の直接的な生理学的作用によるものである場合は、この除外は適用されない。

ICD-11

抑うつエピソードの診断に必須の症状

以下に示す特徴的な症状のうち少なくとも5つが2週間以上にわたり、ほとんど1日中、ほぼ毎日、同時に出現していること。このうち、少なくとも1つの症状は、感情クラスターに属するものでなければならない。

感情クラスター
  1. 抑うつ気分を患者が訴える(即ち、気分が沈む、悲しい)或いはそれが観察される。小児期および青年期では、抑うつ気分が易刺激性として現れることがある。
  2. 活動、特にその人が通常なら楽しいと感じる活動に対する興味または喜びの著しい減少。後者は性的欲求の低下を含むことがある。
認知行動クラスター
  1. 課題に注意を集中・維持する能力の低下、または著しい決断困難。
  2. 自己評価の低下、または過大ないし不適切な罪責感の思い込みが認められ、その内容が明らかに妄想的なこともある。罪責感や自責感が抑うつ的であることのみであることに関する場合はこの項目に該当しない。
  3. 将来に関する希望のなさ。
  4. 死に関する反復思考(単なる死に対する恐怖ではない)、反復する自殺念慮(具体的な計画の有無を問わない)、または自殺企図の証拠。
自律神経クラスター
  1. 有意な睡眠障害(入眠困難、夜間の中途覚醒の頻度増加、または早朝覚醒)または過眠
  2. 有意な食欲変化または有意な体重の変化。
  3. 精神運動焦燥または静止の兆候。
  4. エネルギーの低下、疲労感、またはわずかな労作後に生じる著しい疲れ。
    • 気分の障害は、個人生活、家族生活、社会生活、学業、職業またはほかの機能領域に有意な障害をもたらすほど重度である。
    • 症状は、他の医学的状態(例えば、脳腫瘍)によるものではない
    • 症状は中枢神経系に作用する物質や医薬品の作用やそれらの離脱作用によるものではない。

上記抑うつエピソードを呈している、またはその既往があり、総エピソードや混合エピソード、軽躁エピソードのいずれの既往もなければうつ病と診断され、抑うつエピソードが1回なら単一エピソードうつ病、2回以上なら反復性うつ病

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