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双極性障害(双極症)

双極性障害(双極症)は、爽快な気分で何でもできる感覚になったり寝ずに活動できる時期もあれば気分が落ち込んで時には死にたい気持ちにまで至るなど、健康な人と比べると気分の振れ幅が大きく、持続期間も長い場合もあり、生活に支障を来す疾患です。以下にその詳しい診断基準や症状などを詳述していきます。
双極性障害(双極症)になりやすい人の特徴:病前性格

うつ病や双極症などの気分症群の概念は病前性格と密接な関係のもとに形成されてきた歴史があり、躁うつ病の病前性格の代表的なものとして、Kretschmerの循環気質、下田光造の執着気質、Tellenbachのマニー親和型性格などがあげられます。

ドイツのKretschmerは1920年代に躁うつ病患者は社交的、善良、親切、温厚などの社会的同調性と気分の波を特徴とする循環気質という性格が多い点に着目し、この気質が強まったものが躁うつ病であると考えていました。

Kretschmerと同時代に日本の下田光造は躁うつ病の病前性格として執着気質を提唱していました。即ち、一度起こった感情が減衰せず長く強度を持続する。熱中症や凝り性、徹底的、正直、几帳面、強い正義感、責任感旺盛と評価されるような性格を特徴とし、そういう人が過労の頂点において多くは突然に発症するとされていました。

Tellenbachは1970年代に、うつ病のメランコリー親和型に対をなすものとして、マニー親和型性格を提唱しています。これは秩序と同一化に対する両価性、ある種の几帳面さ、自己中心性、精力性、負荷状況で躁病相を呈しやすいなどを特徴とします。

その後の研修では、すべてがこういった病前性格を示すという結果は得られていませんが、診断の参考になるものと考えられています。

疫学

有病率と性差

アメリカでの生涯有病率は、双極症Ⅰ型は0.4~1.6%でⅡ型は0.5%となっており、発生頻度に男女差はありません。

単一エピソードうつ病及び反復性うつ病が女性に多いのに対し、双極症全体では生涯罹患率にも性差は見られていない。双極症の女性は男性よりも抑うつ状態を呈しやすく、アルコール依存の生涯発症危険率が高いことも特徴です。

発症年齢

アメリカ精神保健研究所の調査研究では初発年齢の中央値は男性18歳、女性20歳、全体で19歳で単一エピソードうつ病及び反復性うつ病に比べて5~6歳若い結果となっています。

経過と予後

治療を受けなかった場合、躁エピソードは2~3カ月持続し、軽躁エピソードや抑うつエピソードは6カ月以上続くことも珍しくありません。基本的には、うつ病相や躁病相からの回復は良好で、多くは完全な機能を取り戻しますが、約1/3は慢性に経過し、気分の不安定さや対人機能、職業的機能の障害、社会的活動の大幅な制限を余儀なくされます。10年間で平均では4回の病相が現れるといわれていますが個人差は当然あります。双極症の患者さんに抗うつ薬を使用することで病相の頻発化を招くことがあり、例外的使用には注意が必要です。1年に4回以上の病相を繰り返す場合を急速交代型(ラピッドサイクラー)と呼び、双極症の10~20%を占めます。また、長期の経過観察によると、双極症Ⅰ型の場合で1/3、双極症Ⅱ型の場合で半分の期間を抑うつエピソードで過ごすことが報告されています。抑うつ状態の期間の方が躁状態の期間より長いことが、多くの双極症がうつ病と誤診をされがちな理由の一つと思われます。

診断

双極症または関連症群は躁エピソード、混合エピソード、または軽躁エピソードまたは症状により定義づけられるエピソード性の気分症群です。経過中にこれらのエピソードや症状は抑うつエピソードや抑うつ症状を呈する期間と交互に出現するのが典型的です。抑うつエピソードについてはうつ病の解説ページをご覧いただくと詳しい診断ガイドライン等を記載しております。躁エピソード、混合エピソード、軽躁エピソードのICD-11における診断ガイドラインはDSM-5の診断基準も併せて下記に記載しておきます。

双極症I型

少なくとも1回の躁または混合エピソードの既往があることが必要です。経過としては抑うつ及び躁または混合エピソードの反復が典型的です。

双極症Ⅱ型

少なくとも1回の軽躁エピソードに加えて少なくとも1回の抑うつエピソードの既往が必要です。経過としては抑うつエピソードと軽躁エピソードの反復が典型的で、躁エピソードも混合エピソードも既往がないことが診断に必要です。
急速交代と混合エピソード
双極症Ⅰ型またはⅡ型において、過去12カ月間に気分エピソードが少なくとも4回以上認められるなど高頻度の場合に「急速交代」の特定用語が付加されます。このような患者さんの場合には1回の気分エピソードの期間が通常より短くなる可能性があり、特に抑うつ的な期間が数日間しか持続しないこともあります。ただし1日ごとや同日中など抑うつ症状と躁症状が極めて急速に交代する場合には急速交代とみなさず混合エピソードと診断します。

診断基準(及び診断ガイドライン)

DSM-5
  1. (仕事や学業などの)多数の出来事または活動についての過剰な不安と心配(予期憂慮)が、起こる日のほうが起こらない日より多い状態が、少なくとも6ヵ月間にわたる。
  2. その人は、その不安を抑制することが難しいと感じている。
  3. その不安および心配は、以下の6つの症状のうち3つ(またはそれ以上)を伴っている(過去6ヵ月間、少なくとも数個の症状が、起こる日のほうが起こらない日より多い)。
注:子どもの場合は1項目だけが必要
    1. 落ち着きのなさ、緊張感、または神経の高ぶり
    2. 疲労しやすいこと汗
    3. 集中困難、または心が空白となること
    4. 易怒性
    5. 筋肉の緊張
    6. 睡眠障害(入眠,睡眠維持の困難,落ち着かず熟眠感のない睡眠)
  4. その不安、心配、または身体症状が、臨床的に意味のある苦痛、または社会的、職業的、または他の重要な領域における機能の障害を引き起こしている。
  5. その障害は、物質(例:乱用薬物、医薬品)または他の医学的疾患(例:甲状腺機能亢進症)の生理学的作用によるものではない。
  6. その障害は他の精神疾患ではうまく説明されない
ICD-11
躁エピソード-診断に必須の特徴
  • 以下に示す特徴の両方が同時に出現しており、かつそれらがほとんんど 1日中,ほぼ毎日,少なくとも 1週間持続する。ただし持続期間については,治療的介入により短縮した場合はこの限りではない。
    1. 多幸感、易刺激性、または誇大性を特徴とする極端な気分の状態で,これは普段の患者に特徴的な気分からの有意な変化を示す。気分の状態は急速に変化することが多い (すなわち,気分易変性)。
    2. 活動性冗進またはエネルギー増大の主観的体験であり、これは普段の患者に特徴的な水準とは有意に異なる。
  • 以下に示す症状のいくつかが出現しており、患者の通常の行動または本人が主観的に自覚している状態と有意に異なる。
    1. 普段よりも多弁、切迫した発話(もっと話さなければという内的な圧力を感じる)。
    2. 観念奔逸または考えが急速にあるいは飛ぶような速さで浮かんでくるという体験(いわゆる思考切迫;例えば思考が次から次へ急速に移り行く、時にはある考えからある考えへとと非論理的に飛ぶ。患者は思考が急速に変わり、時には飛ぶような速さで浮かんできて,ひとつの話題にとどまるのが難しいと訴える)。
    3. 過大な自己評価/自尊心の増大または誇大性(たとえば,自身の技量の水準をはるかに上回る課題をやり遂げられるという確信、自分は近々有名になるという確信)。躁の精神症性状態の場合、これは誇大妄想として現れることがある。
    4. 睡眠欲求の低下(たとえば、2~3時間眠っただけで、よく休めたという)これは、眠りたいのに眠れない状態である不眠とは異なる。
    5. 注意転導性の亢進(たとえば,会話中に外の音に過度に気が散ってしまうなど、無関係または些細な周囲の刺激に注意が向き、やらなければいけないことに集中できない)。
    6. 衝動的で無謀な行動(たとえば、悪い結果になる可能性を考えずに快楽をもたらす活動を衝動的に追い求める。または十分な計画なしに大きな決断を衝動的にする)。
    7. 性欲動、社交性または目標指向性活動の増大。
  • 症状は,他の医学的状態(たとえば,脳腫瘍)によるものではなく,中枢神経系に作用する物質や医薬品(たとえば、コカインやアンフェタミン)の作用やそれらの離脱作用によるものでもない。
  • 気分の障害は、個人生活、家族生活、社会生活、学業、職業あるいは他の重要な機能領域において有意な障害をもたらす。自傷他害を防ぐために集中的な治療を要する(たとえば,入院)、あるいは妄想や幻覚を伴う。
混合エピソード-診断に必須の特徴
  • 躁エピソードおよび抑うつエピソードの特徴と合致する顕著な躁症状と抑うつ症状がいくつか存在し、それらがほとんど1日中、ほぼ毎日、2週間以上にわたり同時に出現する。あるいはきわめて急速に (1日ごとにあるいは同日中に)交代する。ただし持続期間については、治療的介入により短縮した場合はこの限りではない。
  • 症状は、他の医学的状態(たとえば脳腫瘍)によるものではなく、中枢神経系に作用する物質や医薬品(たとえば ベンゾジアゼピン)の作用やそれらの離脱作用(たとえば,コカインから)によるものでもない。
  • 気分の障害は、個人生活、家族生活、社会生活、学業、職業あるいは他の重要な機能領域において有意な障害をもたらす。あるいは妄想や幻覚を伴う。
軽躁エピソード-診断に必須の特徴
  • 以下に示す症状の両方が同時に出現しておりかつそれらがほとんど1日中、ほぼ毎日、少なくとも数日間持続する。
    • 気分の高揚または易刺激性の冗進の持続で、これは患者における通常の気分の範囲とは有意に異なる。ここには,前後関係からみてまったく適切な気分の高揚や易刺激性は含まれない。気分が異なる状態の間で急速に交代することはよくみられる。
    • 活動性冗進またはエネルギー増大の主観的体験であり、これは普段の患者に特徴的な水準とは有意に異なる。
  • 加えて,以下に示す症状のいくつかが出現しており、患者の通常の行動または本人が主観的に自覚している通常の状態と有意に異なる
    • 普段よりも多弁,または切迫した発話 。
    • 観念奔逸または考えが急速に,あるいは飛ぶような速さで浮かんでくるという体験
    • 過大な自己評価/自尊心の増大または誇大性。
    • 睡眠欲求の低下
    • 注意転導性の冗進
    • 衝動的で無謀な行動
    • 性欲動,社交性または目標指向性活動の増大
  • 症状は,他の医学的状態によるものではなく、中枢神経系に作用する物質や医薬品の作用やそれらの離脱作用によるものではない。
  • 気分の障害は,職務上の機能や、通常の社会活動や対人関係において著しい機能障害をもたらすほど重度ではなく、また,幻覚や妄想もみられない。

双極症(双極性障害)の治療

双極症の治療は①躁エピソード急性期に対する治療、②抑うつエピソード急性期に対する治療、③気分エピソードの再発予防の3つの相に大別されます。適応となる治療が相によって異なることや、①や②の相から正常気分に回復させる過程で気分の上げすぎ(躁転)や下げすぎ(うつ転)が生じうることや、一旦正常気分に戻ってもしばしば再発するため、うつ病の薬物療法よりも格段に難しいと言えます。
双極症の治療では薬物療法としてリチウムを中心に処方することが一般的と言えます。その理由としては、リチウムが気分安定薬お中で最も古い研究の歴史を有するため、再発予防効果に関するエビデンスが豊富であり、アリピプラゾールやオランザピン、クエチアピンなどの非定型精神病薬にも再発予防効果は報告されていますが、そのエビデンスとしては研究デザインにリチウムと比べるとやや手法にエンリッチメントデザインと言える節もあり、また自殺予防効果や認知症予防等の副次的な効果の報告からも優先度は高いと考えられます。一方で、即効性がないことが難点の一つであり、躁エピソードに単剤で用いるには無理があります。そのため、リスペリドンやオランザピン、アリピプラゾールなどの即効性のある非定型抗精神病薬を併用する必要があります。

その他にも双極症の治療薬については記載すべきことがたくさんありますが、上記の内容はそのほんの一部にすぎず、また機会がありましたがブログ等でも言及していきたいと思います。

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